パリ・リヨン駅の時計機械室に住み着いた少年ヒューゴの行動が発端となって、忘れられた映画作家ジョルジュ・メリエスが再発見されるという物語。
フランスが舞台なのにヒューゴかっ、と突っ込みたくなるが、原作小説(英語)の邦題はちゃんと『ユゴーの不思議な発明』になっている。
このへんの洋画翻訳業界(?)の体質は大嫌いなのだが、それはさておき。
マーティン・スコセッシ監督で、クロエ・グレース・モレッツが出演するというから観に行ったのに、冒頭の長尺CGシーンにいきなりげんなりする。
クロエも『モールス』の方が良かったし、話の展開も前半はなんだか体質に合わなくて、フランスでございパリでございといったステロタイプな情景にもうんざりだったのだが、老ジョルジュがメリエスであることがわかってからは(最初からわかってたけど)俄然、面白くなる。
『月世界旅行』を始めとする彼の作品の撮影現場が再現され、興味が尽きない。25年以上も前、大学の映画史の授業で『月世界旅行』を観ているのだが、映画館のスクリーンで見るのはやっぱり違う。
他にも断片的ながらいくつかの作品が挿入されていて、メリエス好きなら必見といえる。
ただ、CGについては不満が残る。
まず、リヨン駅の時計塔の内部からパリの町並みを描写するシーンが何度かあるのだが、時計塔の高さがエッフェル塔の半分くらいもある。あの時計塔が160mもあるわけないのである。
第2に、リヨン駅のプラットフォームが高すぎる。フランスのプラットフォームは、イタリアやスペインよりは高いけれど、日本や英国より明らかに低い。なのに、まるで地下鉄駅のようにプラットフォームが高くて、10代前半の少年が登るのに苦労している。あっさり登られては物語が成立しないのはわかるけど、他にも方法はあるだろうと思う。
第3に、線路のクローズアップがあるのだが、レールの締結方式があきらかにおかしい。
せっかく物語の世界に没入したいのに、こうした些細な点で現実に引き戻されてしまうのが悔しい。
やっぱり、こういう娯楽映画をひとりで観に行っちゃいけないのかなぁ……。
余談をいくつか。
老メリエスの住むアパートの近くに高架線があって、蒸気列車が走っている。リヨン駅から徒歩圏内にある市街地高架というとメトロ6号線があるが、これは初めからメトロの一部として開業しているので、蒸気列車が走ったことはなさそうだ。こういうのはファンタジーとして許すのである。
学生時代に観たときは気づかなかったが、『月世界旅行』の女優は誰も脇の処理をしていない。美容史の史料としても価値がありそうだ。
全編でパリの街には雪が降っている。ヨーロッパの冬の、しんしんと底冷えする感覚が蘇る。色彩は絵画的で美しい。なんだかんだとケチを付けたけど、これだけ書くことがあるというのは、やはり面白い映画なのである。