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ベトナム統一鉄道(南北線) SE7列車 ダナン 22:47 - サイゴン 16:05(第1日)


 3泊したホイアンのホテルをチェックアウトしたのは20:00ごろ。それまでの3日間一度も降らなかった雨が、そのころになってパラつき始めた。ホテルは築200年の商家を改装したもので旧市街の真ん中にあり、前の道路に車は入れない。シクロ(自転車タクシー)に荷物だけ積んで、徒歩で車まで行く。ホテルが傘を貸してくれたが、幸い小止みになって差さずに済んだ。
 交差点で待っていた車に荷物を積み込み、ダナンへ向けて発車したとたん、集中豪雨並みの降りになった。


 一昨日ミーソン遺跡へ行ったときと同じドライバーで、ダナン駅まで約50分、さかんに話しかけてくるのだが、訛のひどい英語で半分もわからない。雨は小降りになったり豪雨になったりを繰り返している。

ダナンの市街が近づくと路傍には砂浜が広がり、「列車は何時だ。まだ時間があるな。雨でなかったら車を止めてビーチを見せてやるのに」などと言う。たしかに夜の浜を歩いてみたくもあるが、これから列車で一晩過ごそうというのに、砂まみれになると後が面倒だ。

 


 さいわいダナン駅に着いたときは雨も小降りになっていた。「明日は早起きして空港まで出迎えだ」と言っていたドライバーを見送って駅舎に入る。発車までまだ時間があるので、待合室に人は少ない。世界中どこでも夜の駅は治安が悪いというのが相場だから、用心して駅員のいる窓口に近いベンチに座る。

 

売店も閉まっていて、今夜はお酒を諦めなければならないかとやや意気消沈していたのだが、しばらくして見に行ったらシャッターが開いていた。列車本数が少ないので、発車時刻が近づかないと営業しないらしい。さっそく冷えたビールやお菓子、それに列車の食事がどうなるかわからないのでカップ麺などを買い込む。


 

ふたたび雨が激しくなり、待合室の屋根が音を立てるほどの降りになった。ずぶ濡れになった乗客が駆け込んでくる。プラットフォームに屋根はないし、これでは荷物を引きずって自分の車両まで行くあいだに相当濡れるに違いないと不安になる。いつの間にか待合室がほぼいっぱいになっていて、人いきれで蒸し暑い。


 22:27、列車の入線と同時にプラットフォームへの扉が開いた。線路を横断して2番線へ渡る。雨は止んだようだ。線路は歩きやすいように石畳で舗装されている。プラットフォームも低く、路面電車の軌道に近い。


 列車はダナン駅で進行方向が変わり、私たちの11号車は、機関車、電源車の次に連結されている。ベトナム鉄道のWebサイトによると、この列車の編成は、
・1〜3号車、エアコンなしハード座席車(4人掛けボックスシート)
・7号車、エアコン付きソフト座席車(2人掛け)
・8〜9号車、エアコン付きハード寝台車(3段寝台)
・10〜11号車、エアコン付きソフト寝台車(2段寝台)
となっている。4〜6号車は欠番。

一等、二等ではなく、ソフト、ハードと呼ぶのは共産圏に特有で、階級を否定している関係だと聞いたことがある。中国の鉄道も、在来線は硬座、軟座という名称だが、中国新幹線は一等、二等になっている。

この点、日本の鉄道は呼び方だけでなく制度を変更して「グリーン車」というものを作り、料金体系も変えた。共産圏諸国よりも反階級的なわけで、そういえば1980年代には「日本は世界で最も成功した社会主義国家である」なんて言説があったのを思い出す。バブル経済とその崩壊を経て、誰もそんなことを言わなくなったが。
 ちなみに運賃は880,000ドン(約4,400円)。ダナン―ホーチミン市(935km)とほぼ同じ距離を日本の寝台車に乗ると、一番安いB寝台でも総額20,000円以上になる。もっともベトナム鉄道の切符を国外から正規運賃で購入することは困難であって、我々も旅行代理店に頼んだので実際には2倍近く支払ったのだが、それでも日本の半額以下だ。


 私たちの11号車は旧共産圏の製造らしく、リブの浮き出た車体が特徴的だ。4人コンパートメントの下段寝台を予約していたのだが、部屋へ行くと上段の客がすでにいた。ヨーロッパ系の若い男二人連れで、彼らもダナンから乗ったらしい。早々にベッドへ上がって本など読んでいる。


 そうこうするうち、22:47、定時に発車した。雨に濡れた窓の向こうを、駅舎が後方へ遠ざかる。東南アジアの列車に乗るのは初めてだからわくわくする。これからホーチミン市まで17時間あまり、エアコンの効いた車室でのんびりしていれば良いのだから幸せだ。ホイアンの街歩きは楽しかったが、なにぶん暑すぎた。もう少し涼しい季節(というものがあるならば)に是非再訪したいと思う。
 上段の若者に、
「ここで飲んでもいいですか?」
「もちろんどうぞ」
といちおう断ってから、女房と缶ビールで乾杯する。列車は盛んに汽笛を鳴らしながら暗闇の中を走っている。だんだん速度が出てきて、ふわふわと揺れ始めた。
 どこかのコンパートメントでゲームか何かやっているらしく、中国語かベトナム語かわからないが、廊下から響いてくる声がうるさい。ドアを閉めても聞こえてくる。


 23:30、上段の二人は眠ったようなので、部屋の電気を消す。エアコンが効きすぎて寒いが、そのスイッチは見つからなかった。
 0時過ぎ、廊下のスピーカーから女性の音声が流れる。タムキー到着の案内らしい。ベトナムでは深夜でも車内放送をするのだろうか。

時刻表によれば、このあと夜明けまでに2駅停車することになっている。今はまだ起きているから良いけれど、そのたびに起こされるのは嫌だなと思う。ダナン駅の売店で女房がプラスチックカップを買ってくれていたので、ホイアンで飲み残したワインを飲んでベッドにもぐり込む。

列車は快調に走っていて、レールを刻むリズムが心地よい。ただ、2両先が機関車なので、頻繁に鳴らす汽笛が容赦なく響いてくる。いちばん料金の高い車輌なのに、不条理な気がしないでもない。

 

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