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顔なしたちの世界


 左目の飛蚊症が酷いので眼科へ行く。
 最初にコンタクトレンズを外されて眼圧と視力を測られ、
「裸眼だと両目とも0.02ですねー」(0.2ではない)
「矯正視力は出てますね−。大丈夫ですねー」
「このあと診察がありますので、それまで待合室でお待ちくださいねー」
と追い出される。おいおい、現在の俺の視力は0.02だぞ。

 土曜日なので待合室は混み合っている。
 空いている椅子は識別できるが、他人の顔はわからない。服装と背格好でなんとか老若男女が推定できるという具合。置いてある雑誌を読もうとしても、誌面から3cmまで顔を近づけてやっと文字が見える始末。他人から見たらかなり異様な行動だろう。

 ようやく呼ばれた診察室でも、1m先の女医の顔がわからない。たしか国仲涼子がそのまま歳を取ったような元美人だったはずだが、切りそろえた前髪の下は茫漠たる肌色の荒野が拡がるばかり。人の美醜なんて所詮は薄皮一枚のはなしサ、などと知ったようなことも言ってみたくなる。
 しかしこんな視力では、もし文明が突然崩壊してコンタクトレンズも眼鏡も手に入らなくなったら、3日と生きていけないだろう。
 生きていたとしても、肌が触れあうほど近づかなければ顔も認識できないのだから、ほとんどの知人は顔のない他人になってしまう。愉快な同僚も美形の友人もみんな顔なしになってしまった世界に住むのは、考えただけでも寂しくなる。

 もしかすると、それはそれでシンプルで生きやすい世界なのかもしれないが、それも3日以上生き延びることができればの話である。


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