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『朱唇』 井上祐美子

井上祐美子_朱唇_s.jpg

廓の一室で、遊女が客に尋ねる。

「お家は、なにをなさってますの」

 

これが杉浦日向子の『二つ枕』なら、

客 「わっちは日本橋で」

遊女「にほん橋で」

客 「寒中に心太(ところてん)売りとはすごかろう。」

遊女「許しイせん!」と枕を振りかぶる。

客 「コレサ後生だ。云おう云おう。せともの問屋サ」

となるのだが(「雪野」)、ここは北宋の開封、

客 「代々、東京(とうけい)で天子をしておる」

皇帝なのである。(「歩歩金蓮」)

 

遊郭を舞台にした短編集、というと杉浦日向子を思い出さないわけにはいかないのだけれども、こちらは中国の話なので王朝の崩壊あり異民族の侵入ありと、いささか騒然とした背景の作品が混じる。各編で語られる遊女たちの物語も、けっしてハッピーエンドばかりではない。

それでも話が陰惨にならないのは、つまるところ彼女たちが自分の意思を貫く女性ばかりだからなのだろうか。

 

今回はじめてこの作家の作品を読んだのだが、近代以前の中国が舞台とはいえこれほどカタカナを排した日本語が可能なのだということにも驚かされた。

 

『朱唇』amazon.co.jp

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『写楽 閉じた国の幻』島田荘司

島田荘司_写楽 閉じた国の幻_s.jpg

絵師・東洲斎写楽の正体はXXXXXだった。という画期的な(たぶん)視点で書かれた物語。

仮説の当否を見極める知識はないけれど、提示される状況証拠には説得力がある。

現代編と江戸編が交互に展開して700ページ近い長さを感じさせない。むしろ、著者自身が後書きで述べているように、書かれなかったストーリーが気になってくる。

続編を期待。

 

『写楽 閉じた国の幻』amazon.co.jp

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『ストップ!!ひばりくん! コンプリート・エディション1』 江口寿史

江口寿史_ストップ!!ひばりくん! コンプリート・エディション1_s.jpgコンプリート・エディションが出ているなんて知らなかった。
この漫画、大学時代に出会ったような記憶があるのだが、あらためて巻末の初出一覧を見ると、連載第1回が1981年10月となっている。とするとまだ浪人していたころで、浪人中に「少年ジャンプ」を買っていた記憶はないから最初の方は後から単行本で読んだのだろうか?

因みにWikipediaによれば、1981年という年にはロナルド・レーガンとフランソワ・ミッテランが大統領に就任し、チャールズ皇太子が結婚し、東京12チャンネルがテレビ東京になり、ポーランドで「連帯」に対して戒厳令が発令され、「セーラー服と機関銃」とか「スローなブギにしてくれ」とかあって、「オレたちひょうきん族」が始まっている。どれもこれも、すっかり忘れていたよ。

「少年漫画は死んだッ…」の最終回が1983年11月で、こちらはリアルタイムで読んだのを覚えている。
いずれにせよ30年に近い昔のことで、思い込みが記憶を歪曲するには十分すぎる時間が経過したということなのだろう。
飽きるかなと思いつつ読み始めたら、一気に3巻読了した。ベネシアンブラインドのある白い部屋とか、プラスチックの椰子の木とか、バブル直前の妙に力の抜けたあの時代の空気を反芻しながら、気がついたら読み終わってしまった。

少年漫画が死んでどうなったかというと、大したことは起こらない。それはとにかく、一応の完結をみたということでなんとなくすっきりした人は多いだろう。カラーページがきちんとカラーで読めるし、判型も単行本より大きいので老眼が進行中の目に優しい。


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『世界は分けてもわからない』 福岡伸一

福岡伸一_世界は分けてもわからない_s.jpg 分子生物学などと言われても、純粋文系の人間にとっては想像力の遠く及ばない世界なのだが、福岡伸一の本を読むとそれは超スパゲッティなプログラムを必死にデバッグする作業のように見えてくる。
 スパゲッティを書いたプログラマの名前は「時間」。またの名を「神」。
 どう考えてもそこが原因だと思われるメソッドを必死に解析してみると、実は不愉快なグローバル変数が使われていて、誰がどこでその変数の値を書き換えているのかを調べてようやく別のメソッドを突き止めると、そこではまた別のしかも複数のグローバル変数が……。悪夢である。こんな悪夢を生業として、しかも生涯を捧げる人々がいるのだ。なんて奇特なことだろう。

 福岡は言う。
「世界は分けないことにはわからない。しかし、世界は分けてもわからないのである。」

 ここでようやく私は理解する。
 世界は構造化なんてされていない。部分と全体は不可分に結合していて、分割は常に恣意的だ。
 つまり、システム設計が100%満足にできた例しがないのは自分が無能だからではない。それが世界の本質だからなのだ。

世界は分けてもわからない (講談社現代新書) [amazon.jp]

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