『朱唇』 井上祐美子
廓の一室で、遊女が客に尋ねる。
「お家は、なにをなさってますの」
これが杉浦日向子の『二つ枕』なら、
客 「わっちは日本橋で」
遊女「にほん橋で」
客 「寒中に心太(ところてん)売りとはすごかろう。」
遊女「許しイせん!」と枕を振りかぶる。
客 「コレサ後生だ。云おう云おう。せともの問屋サ」
となるのだが(「雪野」)、ここは北宋の開封、
客 「代々、東京(とうけい)で天子をしておる」
皇帝なのである。(「歩歩金蓮」)
遊郭を舞台にした短編集、というと杉浦日向子を思い出さないわけにはいかないのだけれども、こちらは中国の話なので王朝の崩壊あり異民族の侵入ありと、いささか騒然とした背景の作品が混じる。各編で語られる遊女たちの物語も、けっしてハッピーエンドばかりではない。
それでも話が陰惨にならないのは、つまるところ彼女たちが自分の意思を貫く女性ばかりだからなのだろうか。
今回はじめてこの作家の作品を読んだのだが、近代以前の中国が舞台とはいえこれほどカタカナを排した日本語が可能なのだということにも驚かされた。
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- 2010.07.14 Wednesday
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- by 翠月庵